三七 梁山泊の好漢、江州の刑場に乱入する
黄文炳(こうぶんへい)「この手紙はほんものではございませぬぞ」
その時、刑場の東側から、蛇使いのこじきに一団がむりやり刑場にはいりこんで来た。
…もみ合っていると、刑場の西側からも、膏薬(こうやく)売りの武芸者の一団が、ごういんにはいりこもうとして、兵士たちと言い合いをはじめた。
「こらこら、ここをどこだと思ってるんだ!」
と、こんどは刑場の南側から、天秤棒をかついだ人足の一団が、どんどん中にはいってこようとした。
「おいらは知事さまのところへ荷物をもって行くんだ。何でじゃまをする!」
と、刑場の北側から、旅のあきんどの一団が二台の車を押して、しゃにむに中にはいって来ようとした。
「こらこら、どこへ行く?」
「かかれ!」
というと、宋江と戴宗(たいそう)は首かせをはずされ、首きり役人は刀をとりあげた。
その時、車の上に立って見ていた旅のあきんどの中のひとりが、ふところから小さなドラをとりだして、タン、タン、タンと三つたたくと、それを合図に、四方からいっせいに刑場の中におどりこんだ。
…
そこで宋江と戴宗は背中からおろされた。
「夢ではなかろうか!」
と泣いた。
花栄、ひそかに弓矢をとって満月にひきしぼり、先頭に立った馬軍の将領をねらってヒョウとはなてば、たちまちモンドリ打って落馬した。
宋江は死ぬべき命が助かったのを喜ぶとともに、度重なる黄文炳(こうぶんへい)の陰険な仕打に対して殺してもあきたらぬ思いであった。それで「ぜひこの仇を討った上でひき上げたい」といった。
「おとなりが火事ですぞ」
黄文炳は思わず「アッ」とさけんだ。
黄文炳は
「たしかにわたくしが悪うございました。どうか早く殺してください」
「じょ、冗談じゃねえ! この首をぶったぎられたら、またいつ生えるかわからねえよ。いいよ、だまって酒さえ飲んでりゃいいんだろ?」
李逵(りき)がそういったので、みなみなどっと笑った。