二八 行者武松、酔って孔亮をなぐる
「こら、亭主、きさまよくも人をばかにしおったな」
「こんな無茶なお坊さんて、まったく見たこともない!」
「おや、きみは武二郎じゃないか!」
「おお、あんたはあにきじゃまりませんか」
「…しかしきみはわたしたちとちがってあっぱれ豪傑だから、かならずや大業を立てられるに相違ない。どうかくれぐれも自重しておくれ。ではまた会うこともあろう」
二九 宋江、恩が仇となって逮捕される
「親分はいまはお休みになったばかりだが、おめざめになったら、この『牛』の生胆(いきぎも)をえぐりとって、酔いざめの吸物にしてさし上げ、こちとらは真新しい『牛』肉のごちそうをにあずかろうぜ」
(ああ、わが運命のつたなさよ! あのつまらぬ女を殺したばっかりに、かかるうき目にあい、こんなところで闇から闇に葬られようとは!)
「あなた、ほらあすこに、いま笑った男がいますね、色の黒いチビ助。あれよ、あれがいつかあたしをさらって行った清風山(せいふうざん)の山賊の親分よ!」
「それにしても、あの恩を仇で返した女を殺さぬことには、どうしても腹の虫がおさまらぬ」