第二部
10 ロンドンにて
塩や薬味を使わないで作ったゆで野菜は、わたしにはうまく食べられなかった。…私たちは、朝食にはオートミールのお粥を食べた。…その友人はわたしに、肉を食えと、絶えず理を説いて聞かせた。しかし、わたしはいつもわたしの誓いを弁護し、それから沈黙に入ってしまった。
「それは誓いなどといったものじゃない。それは法律では誓いとは認められないものだ。そんな約束を守るのは、全くの迷信というものだ」
だが、わたしは頑として動じなかった。
「どうか許してください。…肉を食べることの大切なことはわたしも認めます。さりとて、誓いを破るわけにはいきません。…誓いは誓いです。それを破るわけにはいきません」
しかしその一方で、すべてのインド人は肉食家になるがよい、と願った。そして、いつか自分も、自由意思から、そして公然とその一人になること、そしてほかの人をそのたてまえの仲間に加えたい、と望んでいたのだった。
今やわたしは菜食主義を選択することにした。そして、それを広めることがわたしの使命になった。
11 イギリス紳士のまねをして
「君はあまり無神経すぎて、上流社会におけないよ。もし、君が行儀よくできなければ、ここを出て行ってくれ。どこかよその食堂で食事をとって、戸外で待っていてくれたまえ」
菜食主義の埋め合わせとして、…洋服を新調…山高帽…ボンド街でイヴニング…兄に二重の金鎖を送ってもらった…鏡…フランス語…ダンス…ヴァイオリン
ところが、ベル氏はわたしの耳のところで、警鐘をならしてくれた。それでわたしは目ざめた。
わたしは自分自身に言って聞かせた。わたしは一生をイギリスで過ごさねばならぬことはなかった。
12 いくつかの変化
どうやって、わたしはラテン語をものにするか。
わたしの眼前には、もっとずっと簡素な生活の手本があった。わたしはわたしより質素に暮らしている貧乏学生にたくさん出会った。
わたしは食事の改良を始めた。わたしは故郷から取り寄せた甘味のものと、薬味を使うことをやめてしまった。…そして今では、リッチモンドでまずくてしかたのなかった、薬味なしのゆでたほうれん草をおいしく食べた。
菜食主義の初心者に見られる情熱にあふれて、わたしはわたしの地区ベイスウオーターに、菜食クラブを始める決心をした。
13 引込み思案、わたしの心の楯
「君はわたしにはうまく話している。ところが理事会の席上というと、黙ってしまうが、それはいったいどういうのだい?君は雄蜂(おばち)だよ」
働き蜂はいつも忙しい。雄蜂は全くの怠け者である。
わたしは、話そうと思わないわけではなかった。しかしわたしは、どういうふうに表現したらよいか困ってしまうのである。
わたしは、イギレス滞在中、ずっとはにかみやであった。わたしはひとを訪問した場合でも、訪問先に、六人かもっとそれ以上の人が居合わせると、黙り込んでしまった。
「菜食料理のごちそうを、菜食料理屋で食べることは当たり前のことである。菜食料理屋でないところでも、なんで菜食料理をたべられないことがあろうか」
その最大の恩恵は、そのおかげで、考えを抑制する習慣ができてしまったことだった。
真実を誇張したり、押さえつけたり、あるいは修飾したりしたい癖は、人間の生まれつきの弱点をなすものである。そしてこれを克服するのに必要なのが、すなわち沈黙である。寡黙の人は、演説のなかで、考えなしのことを言うことはまれである。彼は一語一語を検討する。
14 虚偽の害毒
イギリスに来ているインドの青年は、恥ずかしくて、彼らが結婚していることを告白する気にはなれなかった。
また、もう一つ、独身者を装うことになる理由があった。すなわち、事実がばれた場合、青年たちは、彼らが住んでいる家の若い娘たちと、散歩したり、ふざけたりすることができなくなってしまうからである。
わが青年たちが誘惑に負けて、イギリスの青年の場合なら無邪気とすませられるが彼らには不道徳な交際のために、虚偽の生活に入ったのを、わたしは見た。
「…イギリスにいるインド人学生は、彼らが結婚していることを隠していることを知って、わたしはそのとおりをまねました。…私はまたここに、私が子供のときに結婚し、そして一男の父であることを付け加えなければなりません」
「…私ども両人は、非常にうれしく思い、心からお笑い申しあげました。…わたしのお招きはなお有効ですし、…そして、あなたから幼児結婚のことをくわしく聞かしていただき、あなたをさかなにして、笑えるのを楽しみに待ちのぞんでおります」
「魔がさしたぞ、早く逃げろ、早く」