五、日田重太郎との別れ
もしもあのとき、店を生きながらえさせるために店員の首を切っていたなら、国岡商店は跡形もなく消えていたことだろう。
…人間万事塞翁が馬、禍福はあざなえる縄のごとし、だ──。
自らの信念を持って正しいおこないを続けていけば、絶対に間違った方向にいくことはない。
「ソ連とのビジネスは東西両陣営の平和的共存に役立つ。政治の世界は複雑だが、民間貿易から交流が始まれば、いつか両者は結びつく。まずそれを日本人がおこなうのだ」
「共産主義国家に手を貸す国賊」
「赤い石油屋」
「貴様らに国賊などと呼ばれる覚えはない。俺は、日本人だ!」
政府の意向は、自由貿易に歯止めをかけ、石油業界を統制しようというものだった。
六、悲劇
「兄さん、事故が起こった」
「ぼくは死ねなくなった」
「国岡鐵造は事故でさえも、国岡商店の家族主義・人間尊重のPRに使う」
「これみよがしの自己宣伝だ」
「言いたい奴には言わせておけ」
七、石油連盟脱退
「国岡さん、あんたね、大勢の人と一緒に仕事をしているんだから、自分勝手なことばから言っちゃ駄目だよ」
八、「フル生産にかかれ!」
「こんなくだらない喧嘩を終わらせるのに、四年近くかかってしまった」
「ああ、最後の喧嘩も終わったな」
「まだまだ、喧嘩するときが来るかもしれませんよ」
「八十一歳の老人に喧嘩させる気か」
九、国岡丸
「私は十月一日に社長を罷免され、これでようやく思い枷(かせ)から逃れることができたと喜んでおったところ、重役たちから『社長を辞めても、店主を辞めることは許さん』と言われ、おおいにがっかりしておるところであります」
「人間というものは、有利な立場に立てば、それを利用しようとする。力を持てば、それを行使したくなる。今度のことは、それがたまたま石油という形にでただけのことだ」
終章
対談の主は国岡商店とアンドレ・マルローだった。
「社員に対する信頼がないからです」
「あらゆることにあてはまります」
「私は、人間を信頼するという考え方を広めていくことこそ、日本人の世界的使命と言っています」
「ヨーロッパは物を中心とした世界ですが、日本は人を中心とした世界です」