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徳山製油所

2013年12月06日 (金) 15:29
徳山製油所

海賊とよばれた男 下
第四章 玄冬 昭和28〜49年

一、魔女の逆襲
国民の圧倒的な支持を集めていたモサデク政権は一日で崩壊した。

「いったいアメリカの狙いは何だったのか」

アメリカの
1ジャージー・スタンダード
2ソコニー・モービル
3スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア
4テキサコ
5ガルフ
イギリスの
6アングロ・イラニアン
イギリス・オランダの
7ロイヤル・ダッチ・シェル
フランスの
8フランス石油会社

コンソーシアムの設立
日本市場で国岡商店が競争できない価格に設定したのだ。

「コンソーシアムとの石油協定は、パーレビ国王が調印した。われわれが、国岡商店に石油を安く売ると決めても、議会を通らない」

それは八匹の大蛇に生きながら身を食われる哀れな巨人の姿だった。

二、ガルフ石油
「戦いは、あえて敵の懐に飛び込まねばならぬときもある」
「今回は、ぼくが直接、アメリカに行く」

「何のために?」
「製油所を作ります」「世界一の製油所です」
「融資の希望額は?」
「一千万ドル」
「よろしいでしょう」

イラン国営石油会社をあのように汚い手口で乗っ取ってしまうメジャーもアメリカ人なら、BOAのように国岡商店の経営理念に多額の融資をするのもアメリカ人ということに、アメリカという国の持つ底知れぬスケールを見たような気がした。

「あなた方がわが社から買いたい原油の量と価格を、ここに書いてほしい」
すると鐵造は丁寧にそのメモを押し返して言った。
「あなたがたが、われわれに希望すること書いてもらいたい。どんな希望も叶えたい」

「しかし──」「あなたがたアメリカは民主主義の国であると主張され、それを誇りにしておられるが、私に言わせれば、あなたがたの民主主義はニセモノであります」

「どこの家でも、家族の中にひとりくらいは出来の悪いのがいるだろう」

「双方の信頼関係さえあれば、そんなものは後からでも十分。私はUOPを信頼しています。仮契約を結びましょう」

三、奇跡
「人間の赤ちゃんは十ヶ月で誕生する。製油所も同じだ」
「御託はいい。何としても十ヶ月で完成しろ」
「ぼくは十ヶ月で完成させろと言ったはずだ」
「ぼくの目が悪いのはよく知っているだろう。こんな小さい数字は目に入らない」

「クレイジーだ」
「また国岡の無茶と大ボラが始まった」
「誇大妄想、ここに際まれり、だな」
「十ヶ月などでできるわがない」
「できないことを要求されてはたまらない」
「国岡商店は建設のイロハも知らないのか」

東雲は…朝は誰よりも早く起きて…
自ら資材を運ぶことも…
夜は誰よりも遅く飯場に戻ってきた。
…全身を泥だらけにして働く姿は工事現場でも評判になった。

現場監督や人夫たちの工事に取り組む姿勢がかわってきた
建設会社間のトラブルがいっさい起きなかった
「こんなことははじめてだ」
「突貫工事のツケが回った」
「国岡商店は魔法の杖でも振り回しているつもりか。製油所を天から降らせるつもりか」
製油所内には、来賓用あるいは店員たちの宿泊施設やクラブ、販売店などはいっさい作らせなかった。
「頼むから年末年始くらいは休んでくれ」
全員が何かに取り憑(つ)かれたように仕事に邁進した。
「国岡商店の若手社員たちを徳山に寄こせるだきけ寄こせ」
「今こそ、国岡商店の力を見せるときだ」
「何としても三月に完成させよ!」
予期せぬトラブル
「納期が十五日遅れる」
「これまで国岡は嘘を言ったことはない。納期が遅れて完成が間に合わないと、国岡が七十一歳にしてはじめて嘘を言ったことになる」
「何としても、資材を間に合わせろ!」

昭和三十二年三月十日、ついに奇跡が起こった。十ヶ月で製油所が完成したのだ。
「工事完了!」

四、海底パイプ
「よくやった」
「店主はなぜ十ヶ月完成にあれほどこだわられたのですか」

「国岡商店はイランの石油輸入に成功して、巨額の金を得た。一気に業界三位に躍り出た。…ここで店員たちが驕り高ぶれば、国岡商店は滅ぶ。」
「製油所建設は、国岡商店の試金石であると思ったのだ。もし店員たちが初心を忘れずに頑張る気持ちを持っているなら、必ずや十ヶ月で完成する。しかし、もし自分たちは大会社の社員であるという驕った気持ちを持っているなら、二年、いや三年経っても完成はしないだろう、と」

「これが日本人の力だ。こういう日本人がいるかぎり、日本は必ず復興する。いつの日か、もう一度、欧米と肩を並べる国になる日が来る。いや、その日はもう遠くない」

「いや、国岡はん、礼を言うのは私のほうや」
「国岡はんのお蔭で、わしは素晴らしい夢を見ることができた。妻を亡くした今のわしにとって、国岡商店の発展を見ることが何よりの喜びなんや。あの日のわしのわずかな金が、世界を驚かすような大きな会社になったんや。こんな夢を見られる老人はどこにもおらん。そやから、礼を言うのは、わしのほうなんや」

しかし鐵造は重森の話を途中で遮ると、計画書を投げるように突き返した。
「話にならない」
「費用がかかりすぎるということでしょうか」
「費用も、何もかもだ」「とにかく、もっと頭を絞れ。一から考えてこい」
しかし心が挫けることはなかった。
ただ店主を喜ばせたい。

店主は何もかもわかっておられたのだ。


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