【あすへの話題】
いやげ物考 美術家 森村泰昌
日本経済新聞 夕刊
2020/11/13 15:30
歓迎されない土産物のことを"いやげ物"という。名付けの親は漫画家でイラストレーターで、そして変人のみうらじゅんさんである。
こちらの趣味にあわない贈り物は確かに困る。それに、たまにもらうぶんにはありがたいが、景品などでタオルばかりが続いたら、それも広い意味でいうと"いやげ物"だと言ってもいいだろう。
先日テレビのワイドショーで話題になっていたが、花束の贈り物を迷惑に感じる人が増えてきたという。毎日水を替える必要がある。枯れたらそのままにはしておけない。めんどうな花よりもパッと食べられるお菓子のほうがいい。インタヴューに答えた人たちの表情には、後ろめたさはさほど感じられなかった。
仕事に家事、これに子育てや介護が加わると、花を愛(め)でる余裕など残らない。時短の二文字が時代のキーワードであるかのように吹聴される傾向も、花は"いやげ"という思いに拍車をかけたかもしれない。
お笑いコンビのミルクボーイが、漫才の始まりで披露する定番ネタがある。観客席からの贈り物を受け取る振りをするネタである。免許証のコピー、8時間測れる砂時計、二段ベッドのハシゴなどをもらい、「こんなん、なんぼもろてもよろしいですからねえ」と、ジャケットの内ポケットに入れる様子をエア実演する。
苦労して今に至ったミルクボーイには、どんな贈り物も"いやげ物"ではない。すべてがお客さんからの声援の証である。このコンビがみんなに愛される理由がちょっと見えてきた。
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