【十選】逆境から生まれたアート(5)
ニコラ・プッサン「アシドドのペスト」
アート・エデュケーター 宮本由紀
日本経済新聞 朝刊 文化(44ページ)
2020/11/5 2:00
旧約聖書のストーリーを引用した、パンデミック下の都市の壮絶な風景である。恐怖映画さながらの緊迫感。作品が制作された1630年、イタリアでは実際に17世紀最悪のペストの蔓延(まんえん)があった。
この絵の作者ニコラ・プッサン。パトロンの注文とはいえ、想像力は凶器にもなり得るという認識下、彼はこの壮絶な作品を描いたのだ。"危険な絵"を描く画家という悪評も立ちかねない。精神的、生理的負担はいかばかりであったか。
実はプッサンは、当時彼が傾倒していたアリストテレスが『詩学』に著した、"悲劇"は鑑賞者の精神を浄化させる、という、カタルシス的逆説作用を絵に込めた、という説がある。