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春秋
日本経済新聞 朝刊2020/10/15
旅はクーポン、クーポンで国立公園めぐり。1930年代半ば、こんな触れ込みのクーポン式遊覧券が人気だった。当時の鉄道省が観光促進のために作り、日本郵船、帝国ホテル、南満州鉄道などが出資したジャパン・ツーリスト・ビューロー(現JTB)が発売した。
▼あらかじめ国が設定した名所の中から客の好みにあわせたプランをつくり、鉄道や船などと組み合わせて運賃を割り引き、旅館券や無料の損害保険切符とともに冊子にとじる。旅館への茶代(心付け)や温泉税、湯銭も不要と書かれていて明快な料金設定とお得感がうけて売れに売れたという(谷沢明著「日本の観光」)。
▼令和の旅の割引事業Go Toトラベルもコロナ禍で落ち込んだ観光業の底上げを期待されるが、思わぬ混乱も起きている。先ごろも割引に使う国からの予算が残り少なくなった一部の宿泊予約サイトが上限額を突然引き下げた。業者によって割引率が異なることにあわてた国土交通省が追加で予算を配分する事態に――。
▼10月から東京発着の旅行も対象となるなど予約が急増したのが理由というが、事業の仕組みに落とし穴がないか改めて点検も必要だろう。「旅客の苦痛となるべき点は排除し、旅客の利便となるべき点は大いに増進せしむる」。官民ともに旅行者の身になって使い勝手を考えた遊覧券は昭和初期の旅行ブームを盛り上げた。