◎経済学者・岩井克人教授
『米中、いまや反理想郷の国』
〜興味深いのは、古典的な社会契約論の世界が現れていること
その基本は「人間は自由になると、互いが敵になり戦争状態になる」
だから「人間は政治体を作り、投票で主権者としての意思を反映させる一方で、政治体の定める法律に従う」
米国の場合、トランプ氏は人々の利己的な行動をあおり立てるような言説を振りまいています。11月の大統領選に向けた同氏の集会で、支持者の多くはマスクを着けていない。主権者意識のみが強いのです。
中国は逆です。共産党独裁の下、国民が主権者である要素がないら、党への服従ばかりが全面に出ている。しかも、習近平政権は強権主義を推し進め、国民の政治的自由を封じ込めたことで先進国型に転身する扉を自ら閉じてしまった。
社会契約論の二つの軸の均衡が破れ、一方に片寄っているのが米国、他方に片寄っているのが中国です。
法を定める自由と法に従う義務――この二つの軸の均衡を求める努力を続けていけば、日本は単なる運の良い国から本当に良い国になるはずです。
(読売10.4)