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春秋
日本経済新聞 朝刊
2020/9/30 2:00
動画投稿サイト「ユーチューブ」に大相撲の時津風部屋のちゃんこづくりが紹介されていた。鶏肉5キロやタマネギ、キャベツなどをダシの入った大鍋に豪快に投入していく。「うちの部屋だと5〜6人で食べきっちゃうよ」。料理番の若手の力士のそんな解説には驚く。
▼きょう大関へ正式に昇進する運びとなった同部屋所属の正代も、このちゃんこを糧として厳しい稽古に耐えたにちがいない。精進のかいあり、9月場所で熊本県出身の力士として初の幕内での優勝を果たし、夢を手にした。69連勝の記録を持つ不世出の横綱、双葉山が戦後に再興した同部屋としては57年ぶりの大関という。
▼十両に上がった際、記者会見で「誰とも当たりたくない」と答え「ネガティブ力士」なんて呼ばれた時期があった。解説の北の富士勝昭さんからは以前「素質はあるが宝の持ち腐れ」と厳しい指摘もされていた。だが、昨年11月場所での敢闘賞を機に、今年は2度も優勝にからむ活躍を見せ、ついに遅咲きの大輪が開いた。
▼実は正代、上位者にとって格好の稽古台だったようだ。場所前は他の部屋の横綱が訪れ、巡業でもよく指名されたという。欠点といわれたあごを上げた立ち合いが、逆に相手から「思い切り当たれる」と重宝がられたらしい。格上との試練に辛抱し実力を蓄え、迎えた晴れの日。伝達式では、どんな口上が聞けるだろうか。