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◎菅新政権 政策を問う(5)アジア激動
日本の浮沈握る外交
日本経済新聞 朝刊 1面(1ページ)
2020/9/24 2:00
2019年5月、官房長官として訪米した菅氏をペンス米副大統領らは異例の厚遇で迎えた(ワシントン)=在米日本大使館撮影
20日夜、菅義偉首相は就任して初めて日米首脳の電話協議に臨んだ。
「シンゾーは大丈夫か? ミスター・スガが自分の右腕で本当に助かっていると聞いている。24時間、いつでも何かあったら電話してほしい」
力の空白埋める
安倍晋三前首相が長期政権を築いた原動力の一つに、各国首脳がてこずったトランプ米大統領との蜜月関係がある。菅首相の外交デビューはその蓄積の上に始動した。
視線の先にあるのは、拡張し続ける軍事力と経済力を背景に、インド太平洋地域で存在感を強める中国の動向だ。
中国は沖縄県・尖閣諸島周辺への侵入を常態化させる。2隻の空母の運用を始め、南シナ海で軍事拠点づくりを進める。「中国人民解放軍はいくつかの分野で米軍を超えている」。米国防総省は9月初めにまとめた報告書で警鐘を鳴らした。
国防費だけみれば公表ベースで米国はなお中国の3倍を超す。中国はその差を一気に縮められる人工知能(AI)や新型ミサイルなど新たな軍事技術の開発を急ぐ。エスパー米国防長官は中国軍の近代化がさらに進めば「南・東シナ海での中国の挑発行為に拍車がかかる」と警戒する。
菅首相は日米同盟の深化に向け、年内に抑止力の向上策で新たな方針を打ち出す。攻撃を受ける前に相手の拠点をたたく敵基地攻撃能力を含め実効性のある方針を示せるか、米国は注視する。
●経済連携必要に
もっとも米国との安全保障関係を強化するだけでは、アジア太平洋地域の環境変化に日本は対応しきれない。
自国第一主義を強める米国にアジアへの関与を促しつつ、経済を中心にアジアや環太平洋諸国との連携をどう深めていくか。日本の外交力がかつてなく試されている。
中国は経済力をフル活用して周辺国への影響力を強めている。最近ではオーストラリアが新型コロナウイルスを巡って発生源の独立調査を求めたことに反発。豪産の農産品輸入を制限するなど同調する国が広がらないよう揺さぶる。
東南アジアなど多くの国が経済的な報復を恐れ、中国を批判しにくい状況が続いてきた。2030年代に中国が国内総生産(GDP)で米国を上回り、首位に立つとの予測がかねてある。それが現実になれば、中国の高圧的な態度はますます強まりかねない。
それだけに民主主義や自由貿易の価値観を共有する国々が結束する環太平洋経済連携協定(TPP)のような枠組みは今後も不可欠になる。
TPPを敬遠し内向きに傾く米国を巻き込みつつ、その輪をいかに広げるか。中国の拡張主義の影響を間近に受けることになる日本にとって、将来の存亡をかけた重い課題となる。