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〈インタビュー 終戦75年に寄せて〉
米ハーバード大学・ウェザーヘッド国際問題研究所
ドナ・ヒックス博士
全ての人が生まれながらにして持つ「生命の尊厳」。その理解の促進と普及を通じて、あらゆる対立を克服するための方途を示してきたのが、米ハーバード大学・ウェザーヘッド国際問題研究所のドナ・ヒックス博士である。終戦75年に寄せてインタビューした。(聞き手=萩本秀樹)
●「尊厳」に基づく関係を築く それが平和を創造する力に
――博士は長年、国際紛争解決の現場に身を置いてこられました。「尊厳」を研究のテーマにするに至った経緯を教えてください。
ハーバード大学・ウェザーヘッド国際問題研究所の一員として、約20年間、パレスチナ問題やスリランカの内戦など、世界中の紛争解決に携わりました。対立する共同体間に、和解のための対話を促進するのが、私たちの任務でした。
交渉は、組織の幹部の出席のもと、行われるのが常でした。質の高い教育を受け、平和のために献身することを惜しまない人たちです。それでもなお、彼らには、和解へと踏み出せない理由があったのです。
交渉のテーブルの上を飛び交うのは、政治的論議ばかりでした。しかし私は心理学者として、テーブルの“下”を流れるもう一つの会話に耳を傾けました。
それは、いらだちや怒りのぶつかり合いでした。言葉には表れなくても、非常に強い力を帯びた感情の流れです。
このことは、どの紛争地域にも共通していました。私は政治的論議ではなく、この“第2の会話”こそが対話の焦点になるべきだと考えるようになりました。
思索を重ねていたある日、悟りのように、私の頭に「尊厳」という言葉が浮かびました。問題の本質は、人間が人間らしく扱われない尊厳の毀損にあるのであり、これこそが、紛争を解決する上でのミッシングリンク(欠けているもの)だと気付いたのです。
和解協定の文書自体がどれほどよく整っていても、当事者たちは、自分が“大した存在ではない”と扱われていることへの感情的な抵抗から、署名することができずにいたのです。
※尊厳が尊重されるための10の要素
?アイデンティティーを受け入れる
?仲間に迎え入れる
?安心できる場をつくる
?存在を認める
?価値を認める
?公正に扱う
?善意に解釈する
?理解しようと努める
?自立を後押しする
?言動に責任を持つ
――万人の尊厳が輝く社会を目指す上では、多くの困難があります。しかし博士は、“人類は試練を乗り越えられる”との確信を語られています。
私が希望を失わないのは、これまで、文化も世代も宗教も異なる世界中の人たちと協働する中で、彼らに起こる劇的な変化を、この目で見てきたからです。
尊厳をもって接することが、自分にも相手にも、どれほどの影響を及ぼすか。そのことを理解した時、彼らは周囲に対する振る舞いを変えました。そしてそれによって、互いの価値を認め合う空間が育まれていったのです。
尊厳を伴う行為とは、具体的に、相手に目を向け、耳を傾け、ありのまま受け入れることなどを指します。実際には、それほど難しいことではないかもしれません。しかし、それらを社会の基盤にしていくために、私たちは日常的に意識し、繰り返し実践する必要があります。
全ては、私たちの選択と献身、そして日々の実践に帰着するのです。
尊厳について学び、語り合うことは、人類を、さらなる共通の高みへと導きます。その高みに立った時、私たちは、自分にも、他人にも、この世界にも、より大きな価値を見いだせるようになるのです。
自分と他者、そして世界との間に、尊厳に基づく関係性を築いていく。これこそが、人類の苦しみを取り除き、争い傷つけ合う悲劇を防ぎ、平和な世界を築く力となると信じます。
Donna Hicks アメリカ・ハーバード大学のウェザーヘッド国際問題研究所所属。世界各地の紛争、対立の現場に立ち会った後、人間の尊厳が果たす役割について研究を重ね、その分野の第一人者に。2011年に発刊された『Dignity』は世界的な注目を浴び、邦訳『Dignity(ディグニティ)』(幻冬舎)が本年2月に出版された。