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【NAR Exclusive】高まる緊張 国境巡り中印両軍が衝突
カシミールが抱く淡い期待
ヒマラヤ山中の国境地帯で6月、中印両軍が衝突して45年ぶりに多数の死者を出した。核保有国同士の戦争になるのではと緊張が走った。両国は(軍司令官らの協議で距離を保ち緩衝地帯を設けるなど)平和的に解決するとの立場を維持している。そんな中、両国の緊張関係に淡い期待を抱いている第三者がいる。インドが実効支配するカシミール地方の住民たちだ。
「中国が来てくれる」
カシミールの帰属を巡る対立の発端は1947年のインドとパキスタンの英国からの独立だ。印パは3度戦火を交え、その後も頻繁に衝突している。インドは中国とも戦争をした。インド独立時までジャム・カシミールを支配していたヒンドゥー教徒の藩王(地方君主)は当初、印パいずれにも属さない独立国家の樹立を探ったが断念しインドへの帰属を選んだ。だが、イスラム教徒が多数派の住民の中にはいまでも独立を望む人が少なくない。
ジャム・カシミール州の自治権は同地域がインドに編入される際に憲法370条で認められたものだ。スリナガルに住む公務員のワカス・アーマド氏は「憲法370条の廃止でカシミールの住民一人ひとりの心が踏みにじられた」と話す。
中印対立の様子を注意深く見つめるカシミールの住民は多く、中国による「介入」を歓迎する人もいる。カシミール地方の南部出身の政治学専攻の学生、ユニス・アリ氏にとって、中国による介入は「希望」を意味するという。カシミールの帰属を巡る紛争などについてSNSに頻繁に投稿しているアリ氏は「カシミール問題の解決には中印衝突のような事件が必要だ」と語る。
「カシミール問題が解決できるなら、たとえ戦争になってもいいと考えている人もいるし、強大な中国に期待を寄せる人もいる」
パキスタンはこの地方の約3分の1を実効支配する。印パは互いの支配地を含む同地方全域の領有権を主張し、溝は埋まらない。
スウェーデンのウプサラ大学のアショク・スウェイン教授は「カシミールの帰属を巡る問題がインドとパキスタンとの紛争である限り、インドは軍事的にも外交的にも優勢だった」と語る。だが、インドがジャム・カシミール州の自治権を剥奪することに中国は公然と反発し、今回は武力衝突で力を見せつけた。カシミール問題で中国とパキスタンが協調してほしいとひそかに願っていたカシミールの住民の気持ちに再び火が付いたのかもしれない。
(スリナガル=バット・ブルハン、サキブ・ムグルー)