Contents
RSS 2.0

ブログ blog page

そんなバカなことが

2016年03月12日 (土) 21:43
そんなバカなことが

◎すべてを駆ける
蜂須賀彦左衛門は、馬は自慢の乗り手であったが、びっこの黒田官兵衛は、馬がすべるといかにも危げに体が揺れる。心の中では同情しているくせに、見ると笑う年ごろの小姓たちだった。

「それは右府さまがことだな」
「さよう、そして右府さまと交渉してから譲った方が、憎い筑前の顔をつぶしてやれるというわけで‥……」
官兵衛はそう言うと行く手に立った入道雲を見やって意地わるそうにニタリとした。

「口に毒を持った男だ」

「しかし‥……」
と、官兵衛も譲らなかった。
「右府さまのおいでになさる前に、戦を終わらせておいた方が、お手柄でござりましょうが」
「というと、ここで安国寺に、一歩譲れというのか官兵衛は」
「譲れとは申しませぬ。が、つねに相手に希望を持たせて交渉をつづけてゆく‥……これが駆け引きのコツだと申し上げているので」
「ワッハッハッハ、これはよい。まさにそのとおりだ。さすがに黒田官兵衛は知恵者だわい。まさにそのとおり‥……」

「官兵衛どのは、ひどく安国寺を買ってござるが、恵瓊と申す坊主、たしかに小早川や吉川に献策できるほど信用を得ているのかな」
「はい。殿が、この官兵衛をお信じ下さるほどには」
「フーム。すると大したものだ。わしは一にも二にもおぬしだからの」

「‥……しかもこの傑物、一にも二にも、殿を褒めてござりまするぞ」
「なに、わしを褒めていると‥……油断のならぬ坊主だ。やたらに人を褒める奴は腹黒いぞ」
「はい。その点まことに殿によく似ております」
「ワッハッハッハ、そうか。そうときけば」

密書は‥……信長を本能寺に、信忠を二条城に、それぞれ討ち取ったゆえお知らせするという意味らしかった。
(光秀が信長父子を討ち取る‥……)

「いまのニセ者、名ある武士だ。勝ち戦ゆえ斬れと言え」

「はッ」
佐吉が駆け出してゆくと、秀吉はまた、
「そんなバカな‥……」

「そんなバカなことが‥……」

(しかしそのような感情の衝突ぐらいで、謀叛を企てたりするほどバカな光秀ではない)


トラックバック

トラックバックURI:

コメント

名前: 

ホームページ:

コメント:

画像認証: