中国の社会保険制度の歴史は比較的古く,1951年に『労働保護条例』が発布されています。2010年に社会保険法が発布され,体系的な統一がはかられました。現行法は会社が加入すべき保険として,養老保険,医療保険,労災保険,失業保険,生育保険(以上を「5険」と呼んでいます)を定めています。人力資源社会保障部が所轄部です。
?養老保険とは,定年退職後の年金支給です。15年以上の保険料納付によって受給資格が生まれます。
?医療保険とは,医療費の負担ですが,労災や出産は含まれません。
?労災保険とは,労災に関わる医療費の負担と補償金等の支給です。
?生育保険とは,出産に関わる医療費の負担と産休手当等の支給です。男女同一条件ですが,農村戸籍の従業員は加入が認められていません。
?失業保険とは,失業期間中の生活費と医療費の支給です。給付期間は,保険料の累計納付期間によって異なりますが,10年以上納付した場合,最長24か月間受給することができます。
外商投資企業が,中国において中国人を雇用する場合,中国の社会保険制度に加入し,保険料を負担する義務が生じます(外資企業労働管理規定12条,北京市労働契約規定9条)。違反すると罰則が適用されます(労働法違反に対する行政処罰弁法17条)。また社会保険法97条によって外国人就労者についても社会保険に加入することが義務付けられましたので,就労者の国籍による差異はなくなりました。
社会保険料の負担比率は地域によって異なります。以下はおおよその目安です。
?養老保険料の企業負担は労働者の賃金に対して20%,労働者負担8%です。
?医療保険料は企業10%前後,労働者は2%前後です。(かつて国有企業が大半を占めていた時代は,国有企業が医療費の全額を負担していましたが,市場経済化に伴い現在の仕組みに変わりました。)
?労災保険料は企業だけが労災リスクに応じて0.5〜2%負担で,労働者の負担はありません。
?生育保険料は企業だけが1%以下を負担すると定められています。
?失業保険料は,企業負担2%以下,労働者負担1%以下です。
以上の「5険」の合計額は,地域によって異なりますが,概ね給与の30%を超える額となります(北京市では32%以上,上海市では37%以上となるとの試算がJETROから公表されています)。
また上記のほか,従業員に対する福利厚生制度として,住宅積立金制度があります(住宅積立金管理条例)。これは,都市住民の居住水準を高める目的で,外国投資企業等及びその従業員に対し長期住宅準備金の積立義務を課し,積立金を従業員の個人所有として,従業員自ら居住する住宅の購入,新築,改築,大修理等の用途に限って費消することを認める制度です(2015年以来、家を賃借するための積立金の使用も認められるようになりました)。上記「5険」と合わせて「5険1金」とも呼ばれます。住宅積立金納付比率は,地域及び企業により異なりますが,5%以上12%以内とされています。
そうすると,企業が負担する社会保険費用は,一般的に給与の40%を超える重い負担となります。コスト計算を誤らないよう,中国進出企業にとって必ず検討すべき点といえます。