一 王子と乞食の誕生
一六世紀もそろそろなかば過ぎようというころのある秋の日、ロンドンに住むカンテイという貧乏人の家に、男の子がひとり生まれた。それと同じ日にロンドンの市中の、チュードルの宮殿で、待ちに待たれた男の子がうぶ声をあげた。
二 トムの成長
夜、一文ももらわずから手で帰ると、まず父親にさんざん小言をいわれ、むちでうたれ、その次に、恐ろしい祖母からまたもう一度、小言とむちを、父親よりもなおはげしくあびせかけられなければならないことも、よく知っていた。
三 トム、王子に会う
「こんなものを着てみたいのか? じゃあ、ひとつやってみようじゃないか。さあ、おまえのそのぼろをぬいで、このピカピカしたのを着てみるがいい。ほんのちょっとの間の楽しみだけれど、ゆかいなことはやっぱりゆかいだろう。まあ、できる間だけ楽しもう。そして、人がこない中にまた取りかえちまえばいいよ」
四 王子の苦難
「馬洗の池へ引きずってっちまえ! 犬はどこにいるんだ? そら来い、ライオン、そら、ファングスも来い。やっつけちまえ、やっつけちまえ」
五 宮殿のトム
「……国王様、わたくしは乞食の生まれでございまして、あなた様のごけらいの中の一番いやしい者でございます……」
六 王子の練習
へやにつめている従者たちの方は、あっちへさがりたくてむずむずしていたが、トムの口から許可がでないので、動くことができないのだ。
七 食事のしくじり
「どうか、助けてくれ、鼻がかゆくてたまらないが、こういう時にはどうするきまりなのか、早く、早く教えてくれ、もう、とてもがまんができない、早く、早く!」
八 玉璽のゆく
ハートフォールド卿
「たわけめが! 余が巡幸の時に持ってゆく小玉璽が宝庫の中にあるにではないか。大玉璽がなくなったら、なぜそれで間に合わせぬのじゃ? なにをまごまごしているのじゃ? 早くゆけ! きゃつの首をもってくるまでは、ふたたび、ここへ出るな、わかったか」
九 テームズ河の盛典
「皇太子様のお通りだ、エドワード殿下のお通りだ」
ああ、泥小屋の中に生れ、ロンドンのごみの中で育ち、ぼろとあかと辛苦にのみしたしんできたトム・カンテイよ、これはまあ、なんという光景だろうか!
十 橋のたもとで
そこで親愛盃(ラビング・カップ)と呼ばれている大盃ーー昔、戦国時代に、諸侯が臣下たちに忠節を誓わせた時、万が一にも盃を片手でいただきながら、片手で短剣をぬいてかかって来るような裏切者でもあってはとの用心から、両手でなければ持てない大きなカップを使ったという故事にちなんだ、大きな酒のコップになみなみと注いだのを、船頭は昔からのきまりにある通り、片一方の手でそれを持ち、片一方の手ではいかめしくナプキンをだすまねをした。
十一 市会議事堂で
絹のクッションの中に、なかば身を埋めるようにして腰かけているトム・カンテイにとってはこの光景はなんともいいようのないほど、荘厳なまた驚くべきものであったーーそばにすわっているエリザベス王女やジェーン・グレイ姫には、そんなことはなんでもないふつうのことなのだった。