第7章
我らの騎士殿、
ドン・キホーテ・
デ・ラ・マンチャの再出発
「騎士諸君、今こそ、勇士の腕の見せどこりでありますぞ、このままでは、試合の勝利は腰抜けの都侍に拐(さら)われまする」
「書庫ですって、あらまあ、何のことかしら。この家には、とっくに、書庫もなければ本一冊もありませんよ、悪魔がごっそり拐(さら)っていったんじゃありませんか」
「悪魔ではなくて」姪が傍から補正した。「魔法使いよ。ある晩、雲に乗ってやって来て、そう、伯父様が家をお出になった翌日(あくるひ)ですわ、…」
第8章
風車に立ち向かう勇士ドン・キホーテ。
驚天動地、想像を絶する大冒険である。
その大成功の壮観と、
感銘とも深い出来事のあれこれ。
「もう、嫌だなあ」従者がこぼす。「言ったじゃありませんか、風車だと。見れば判ることなのに、頭中でも風車が回ってるんですか、くるくるぱーと」
「吐けませんか、左様でございますか」とうなずくサンチョ。「騎士は泣かないということでありますね。それについては一言も御座いませんが、正直申し上げますと、痛けりゃ、痛い、と声をあげてくださるほうが、家来といたしましては気が楽であります。盾持ち従者のおいらなどは、蚊が刺して飛び上がって、痛いと申します。遍歴の騎士ではなくて家来ですから、家来は家来らしく弱虫でなくちゃいけません、そうではありませんか」
「くれぐれも申しておく。わたしがどんな目に遭おうと助太刀はならん。相手の身分が下司下郎であれば手を貸してもよいが、騎士の場合、手出しは無用。騎士にあらざるおまえが手を出しては掟破り、それが騎士道というものだ」
「貸すものですか、鐚一文(びたいちもん)」とサンチョ。「おおせの通りにいたします。わたくしは生まれつきの平和好き、他人様の喧嘩騒動に首を突っ込むなど、真っ平御免こうむります。…神の掟も人の掟も、人を人と思わない奴に対しては咬(か)みつけ、と言っております、それが自衛というものでありましょう」