一〇 林冲、野猪林(やちょりん)で花和尚に一命をすくわれる
「おれたちがお前を殺すのじゃないんだ。じつはこのあいだ出発の日に、陸副官さんというのが見えて、高太尉閣下の命令でお前を殺し、お前の面の金印を証拠に持ちかえるようにと頼まれたのだ」
林冲はそれを聞くと、はらはらと涙をこぼしていった。
「お役人、わたしはこれまであなたがたと何のうらみもない間柄です。どうか命だけはお助け下さい。一生恩に着ますから」
「世迷いごとはよしてくれ、助けてやるわけには行かんよ」
ーーと、いう時おそく、かの時はやく、松のかげから、雷鳴(かみなり)のような音がしたかと思うと、鉄の錫杖(しゃくじょう)がピューッとうなりを立ててとんで来た。
「手前らの話はのこらず森の中できいたぞ!」
「あにき、話がある。ふたりを殺さないでくれ」
一一 林冲、洪師範と棒の試合をして勝つ
こんどは洪師範が大上段にふりかかり、林冲は棒を横たえて身がまえた。洪師範、「さあ、さあ、さあ」とおめきさけんで、ぱっと打ちおろせば、林冲さっと一歩うしろへしざる。洪師範、一歩ふみこみ、棒をひいて、ふたたび打ちおろす。林冲は相手の足もとがみだれたのを見て、「エイ」と棒を下から上へはらうと、洪師範、不意をくらって、たちまちからだが一回転、向こうずねをしたたかにやられ、棒を取りおとして、バッタリ倒れた。
一二 林冲、吹雪の中を梁山泊に走る
柴進「そんならこうしなさい。山東済州に梁山泊という水郷があります。まわりが八百里、……ただいま三人の好漢がそこに寨(とりで)をむすんでおります。……七、八百の子分を集めてあばれまわり、罪を犯してこの世に身のおきどころがなくなった人々をうけ入れてくれます、……紹介状を書いてあげますから、そこへ行かれたらどうです?」
一三 林冲、青面獣楊志と決闘する
正義のさむらい林冲は
誠忠無比の男にて
武勇のほまれ世に高く
知らぬ人とてなかりしに
いまは根のない浮草の
きのうは東きょうは西
ああわが武威もて泰山の
東鎮めん日はいつぞ
一四 楊志宝刀を売り毛なし虎の牛ニ(ぎゅうじ)を殺す
「まず槍の試合をせよ」と梁中書。
兵馬都監の聞達(ぶんたつ)が大声に、
「まった!」
「両人のうちどちらの武芸がまさるともまだわかりませぬが、しんけんに打ち合い、万が一にも片輪者や死人ができましては、軍にとって不利でございます。槍先を布でつつみ、石灰をまぶして戦わせ、黒の上着についた白点の多い方が負けということにしたらいかがでございましょう?」
一五 赤髪鬼劉唐、晁天王にたすけられる
晁蓋(ちょうがい)「してその三人は、どこの、何という……?」
呉用「梁山泊の近くの石碣(せきけつ)村で、漁師をしている阮氏兄弟です。三人兄弟で、ひとりは立地太歳の阮小ニ(げんしょうじ)、ひとりは短命二郎の阮小五(げんしょうご)、ひとりは活閻羅(かつえんら)の阮小七といいます」
一六 呉学究、阮氏兄弟を説き、公孫勝馳せ参ずる
阮小ニ「だがね、今どきの役人は、わけのわからぬとんまやろうばかりだからね。とほうもない大罪人でも、大手をふっていばっている世の中だ、おいらだって、こんなつまるぬ暮しをしているよりは、仲間に入れてくれる者さえありゃ、喜んで行くね」
阮小五「おれもそう思ってるんだ。これだけの腕前をもった三人を、だれか買ってくれる者はないかと」
それで呉用がいった。
「かりにきみたちを見こんで、ぜひという人があったら、きみたちは行くかい?」
阮小七「いうにゃ及ぶ! そういう人のためなら、水の中といえば水の中、火の中といえば火の中、一日でもお役人立ったら、死んでも思いのこすことはないね」
一七 七豪傑、黄泥岡(こうでいこう)にて不義の財をうばい取る
お日さまカッカと火のように焼ける
田んぼじゃ稲穂がこげついて枯れる
百姓のはらわた湯のよにたぎる
旦那後生楽 手にうちわ
一八 楊志と魯智深、ニ竜山をのっとる
楊志(金もないし、頼って行くあてもない。どうしたものだろう?)
「まった!」とだけんだ。「お前は何者だ?」
「拙者は東京(とうけい)の制使楊志というものだ」
一九 及時雨宋江、晁蓋に急を知らせる
わしは蓼児哇(りょうじわ)の漁師でござる
畠(はた)も作らにゃ田も植えぬ
悪い役人根こそぎ殺して
宋の天子(みかど)へご奉公
「あいつが阮小五です」
阮小五はカラカラと打ち笑って、
「民百姓をいじめるクソ役人め。おれさまに向かって、つっかかってくるとは、大胆不敵!」
わしが国さは石碣村よ
人を殺すが大すきだ
まずは何濤(かとう)の首ちょんぎって
宋の天子(みかど)へ手みやげに
ニ〇 林冲、王倫をきり晁天王を頭領に推(お)す
林冲「この梁山泊をわがもの顔にしやがって! きさまのような度量も実力もないやつが、山寨(さんさい)の主になる柄か! 今こそ拙者が成敗してやる」
林冲「知勇兼備、義侠をもって天下にその名をとどろかせておられる晁蓋どのこそ、その人です。晁蓋どのこそこの山寨の主と仰ぐべきです」
ニ一 宋江怒って閻婆惜(えんばせき)を殺す
「このごろちっともうちには来てくださいませんが、どうしたのですか? 娘が何かお気にさわるようなことでも申しましたのでしょうか? そうならわたしからよくいってきかせまして、おわびをさせますから、今晩はぜひいっしょにいらしてくださいよ」
ニニ 武松、景陽岡にて虎を退治する
「お客人、ふん、お客人か? おれだって最初ここへ来当座はお客人だったんだぜ。それもすごくだいじなお客人あつかいをうけていたんだぜ。それが今じゃどうだ、お前たちのつげ口のおかげで、出て行けがしのあつかいだ。ふん、男心と秋の空ってやつだ!」