◎長江を渡る
功績のある者に大官をあたえればかならずしも有能でないために弊害をまねく。このため、爵をあたえてその身を重くするのである。…これはあるいは遥か後世のイギリスにおける勲爵士(ナイト)にあたるかもしれない。
人がかれのもとに集まらなかったのである。
項梁
「羽よ」
「おれには、子だねがないのだ」
「いわば、人としてはずれ者だ」
召平
(項羽という男は、おのれ一個の力量を恃(たの)みすぎ、配下の諸将をうまく御そうとはしない男らしい)
◎楚の武信君の死
できるだけなまの姿を衆目に曝さないことであった。
(江南の長江は大きすぎる。真に人間を益する河というのはこの淮河のことだ)
鯨布は六国(安徽省)の人である。
(どうすべきか)
項梁は…そういう場合、一見、なまけものとしか見えないような体(てい)をとった。陽が高くなるまで、朝寝をしたり、日中も寝台の上に丸太のようにころがって、睾丸(こうがん)を鷲づかみにしては伸ばしたり、ときにひとりで哄笑したりした。
──戦って勝つ以外に、志を天下に認めさせる方法はない。
(あのばけものが大勢力を得てはこまる)
しかし眼前の急務は流民を大量にあつめることであった。
◎宋義を撃つ
「黄河」
「大楚(タアチュウ)!」
「なるほど、おれは黄河の流れに沿って西をめざしてきたが、勝ちすすんでいると思いこんできた。これは章邯が勝たせてくれたのか」
「秦は民を餓虎(がこ)のようなものであった。その秦を倒すのにわれわれが餓虎になっては、何のために起ちあがったのか、意義を失います」
──いったんは、屈すべし。いまは退却することは、次に勝ちを得ることです。
◎鉅鹿(きょろく)の戦
項羽はこれまで一介の武弁にすぎなかった。
(この男には、欠陥が多い。しかし掘り出したままの新珠(あらたま)のようなよさがあるとすれば、そこだ)
◎秦の章邯(しょうかん)将軍
百年の知己のように親しげに口をきく
戦いはね、政治のためにあるんですよ
功績がありすぎると、それに報いようにも土地がないために、法にかこつけ、誅殺(ちゅうさつ)することによって問題を片付けてしまうのだ
いま人心は秦を離れ、…あなたの軍隊は逆に損耗するのみで日に日に減っている。これは天が秦を滅ぼそうとしていることの一つの証拠である。
たちまち二十余万人という人間が、地上から消えた。
「秦(関中)の父兄はこの三人を怨み、その怨みは骨髄に徹しています」
「沛公(劉邦)は、なんとご運のよいことか」