◎柿の町の樹の下で
高祖ハ、沛ノ豊邑(ほうゆう)ノ中陽里ノ人ナリ。姓ハ劉氏。字ハ季(き)。父ハ太公ト曰(い)ヒ、母ハ劉媼(りゅうおう)ト曰フ。
劉邦「こどもは乳をのむ。おとなは酒をのむ。どちらも人間を大きくするものだ」
(なるほど、政治とはそういうものか)
候生「私は、貧しくあっても身を清らかにして暮らしている。邪魔をしないでもらいたい」
◎挙兵
「人間の鑑(かがみ)とは、ひょっとすると肅何(しょうか)のような男のことをいうのかもしれない」
肅何「劉季(りゅうき)(劉邦)ハ固(もと)ヨリ大言多ク、事ヲ成スコトスクナシ」
大ぼらふき、何をやったという事もないろくでなし
(劉邦には徳というほどのものはないが、ちょっと類のない可愛気(かわいげ)がある。このことは、稀有なものとして重視していいのではないか)
夏候嬰(かこうえい)
「あっしが居なければ、劉あにいはただの木偶(でく)の坊ですよ」
◎楚人の冠
秦のたがは、はずれた。
土くささ。
どこか異民族めいたにおい。
辺境の盆地。
しかしながらふしぎなゆたかさ。
鉄のような法。
天下の離れ座敷。
「このために人民は翻弄され、家郷を離れ、ついには流離して流盗にならざるをえないのでございます」
趙高「朕とは、きざしでもあります」
「物事のきざしというのは、目にも見えず、耳にも聞こえませぬ。…人の耳目に陛下の声容が触れるようなことがあっては陛下はただの人間であり、皇帝ではないということであります」
陳勝
(虚喝(はったり)以外に、おれに何があるか)
范増(はんぞう)
(王になられたか)
(陳勝も、これまでだな)
「王よ、食べるもねはないか」
(陳勝を殺せば。──)