著者:百田尚樹(ももたなおき)
「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、一つの謎が浮かんでくる──。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。
私は一冊の本を読み始める時は、いつも後ろのあとがきから読みます。作者の最も訴えたいことや意図などを最初に大まかに押さえたいのです。
この「永遠の0」も後ろの解説を読んだだけで、ちょっとうるうるしてしまいました。
覚悟して読んでいきます。
プロローグ
こいつらには家族がいないのか、友人や恋人はいないのか、死んで悲しむ人がいないのか。俺は違う、アリゾナの田舎には優しい両親がいたし、許嫁(いいなずけ)もいた。
第一章 亡霊
「これは仕事関係で会った新聞社の人の言葉だけど、神風特攻隊の人たちは今で言えば立派なテロリストだって。彼らのしたことはニューヨークの貿易センタービルに突っ込んだ人たちと同じということよ」
「…時代と背景が全然違うから違って見えるけど、構造は同じだって。いずれも熱狂的愛国者で、殉教的という共通項があるって言ってたわ」
…
「イスラムの自爆テロリストの孫も六十年後にはそんなことを言っているかもね」
「生まれた時代が悪かったんだなあ。久蔵さんよ」
「私たちは新字しか知らないし、正字を全然習ってないからね。中には元の字と似ても似つかない字もあるわ。たとえばこの字──」
第二章 臆病者
「知っている」長谷川は間髪入れずに言った。
「奴は海軍航空隊一の臆病者だった」
「そのものずばり、命が惜しくて惜しくてたまらないという男だった」
「奴はいつも逃げ回っていた。勝つことよりもおのれの命が助かることが奴の一番の望みだった」
「いいか。戦場は戦うところだ。逃げるところじゃない。あの戦争が侵略戦争だったか、自衛のための戦争だったかは、わしたちにとっては関係ない。戦場に出れば、目の前の敵を討つ。それが兵士の務めだ。和平や停戦は政治家の仕事だ。違うか」
…来る日も来る日も中国空軍と戦った。ただし、その頃には中国空軍は零戦との戦いを徹底的に避けるようになっていたから、零戦での撃墜の機会はついになかった。
「あいつは逃げるのが上手いからなあ」
奴の「お命大事」は隊でも物笑いの種だった。奴の「名言」は知らないものはない。「生きて帰りたい」だ。
「いやな人だったな」
姉「可哀相な人だわ」
第三章 真珠湾
そして十一月二十六日、全空母から搭乗員が全員集められ、そこで飛行隊長から「宣戦布告と同時に真珠湾の米艦隊を攻撃する」と教えられました。
ミッドウェーの作戦は事前に米軍にすべて筒抜けだったのです。
…米軍はミッドウェーの基地から平分(ひらぶん)で「蒸留装置が故障して真水が不足している」とニセ電文を送ったのです。
…米軍は手ぐすね引いて我が軍を待ち伏せていたのです。
その時です──見張員の悲鳴のような叫びを聞いたのは。あの時の声は一生忘れられません。
空を見ると、四機の急降下爆撃機が悪鬼のように降りかかってきたのです。
「一つだけ聞かせてください」…「祖父は、祖母を愛していると言っていましたか」
「愛している、とは言いませんでした。我々の世代は愛などという言葉を使うことはありません。それは宮部も同様です。彼は妻のために死にたくない、と言ったのです」
「それは私たちの世代では、愛しているという言葉と同じでしょう」